体験学習の理論的背景

体験学習では、一定の学習目標を持ち、また次のような理論モデルに基づいてプログラムを設計及び実施しています。

学び方について

コンフォートゾーン・モデル

ウィルダネス・ファシリテーションの体験学習では「チャレンジする」ことを大切にしています。コンフォート・ストレッチ3Mike Brownによるコンフォートゾーン・モデルによってもその重要性を説明できます。要するにこれは、「安住の地に成長はなく、人は恐れや葛藤を乗り越えることで学習し成長する」ということを提唱ています。内側のコンフォートゾーンとはつまり心理的ストレスのない状態のです。その外側はストレッチゾーン、つまりチャレンジをしている状態のことを示しています。Mike Brownは、Growth/learning zone(成長/学びのゾーン)と呼んでいます。実はこれはAdventure Education(冒険教育)の分野で用いられているモデルで、非日常的なアドベンチャー環境(つまりウィルダネス)が、人の成長を促すのに効果的であるということも表しています。

当プログラムでは、自らコンフォートゾーンから踏み出すことが成長するために重要なことだと考え、チャレンジする機会と環境を整えています。

体験学習サイクル

David A. Kolbの体験学習サイクルに従って、「目の前で体験していることから学ぶ」という学び方をします。これは「①体験をし、②何が起きていたのかを省察し、③どうやってそれが起こったのかを分析し、④次にどうするのがよいか仮説を立て、⑤試みる(次のサイクルにおける体験)」いうことを繰り返しながら学び成長していく過程を表したものです。

体験学習サイクル2ごく当たり前のことのように思えますが、実は人間にとってむずかしい学び方でもあります。なぜならば、人はそれぞれ様々な枠組みを持った存在であるからです。例えば、体験したことをふりかえるときに、「やっぱり駄目だった、どうせ自分には力がないから」とか「思った通りうまくいった、さすが自分だ」と考えることはないでしょうか。この場合、その体験(結果)がどうして起こったのか既に答えが決まっています。「ダメな自分」「できる自分」という枠組み(色眼鏡)を通して体験をふりかえったことによるサイクルの逆回りです。サイクルを正しく回すためには、結論を保留して「何が起きていたのか」そのデータを全員の視点から洗い出す(指摘)必要があります。しかしここにも罠があります。人は見たいものを見たいように見てしまうため、都合の良いデータだけを拾い集めてしまうのです。この指摘の段階で集めたデータが偏っていたり間違っていたりすると、その後の分析や仮説も偏ったり間違ったものになってしまいます。

そう考えると、体験から学ぶということが大変な作業のように思えてきます。しかしだからこそ、体験学習は単なる方法ではなく、その学び方を体得することに価値がある学習目標そのものとも言えます。日常生活(特に忙しい現代社会において)の中では、体験していることを深く省察することなく、無意識に体験の意味を結論付けていないでしょうか。しかし実は、日々目の前で起きていることの中にこそ、学び成長する素材があふれています。体験から学べるようになることは、自ら学び成長する力をつけていくことと言えるのではないでしょうか。

また、当プログラムがグループ活動をする意味も体験学習にあります。先に述べたように、人はそれぞれ異なる枠組みを持っています。「とにかくやってみよう」という“体験”に大事にする人、「どんなことが起きていたかな」と“指摘”を得意とする人、「なんでだろう」と分析を好む人、「次はこうしよう」と“仮説化”が上手な人、等のように人にはそれぞれ得手不得手や学び方のクセがあるものです。どこかに偏ったり、サイクルを逆回りしたりするのは人間だからです。グループで共通の体験をすることによって、お互いを補い合い、より真実に近い学びへと近づいてことができるのです。

コンテントとプロセス

コンテントとプロセス2体験学習のサイクルを回す上で重要な概念がコンテントプロセスです。私たちが日々体験していることを、見えている部分と水面下にある部分という2つの側面から捉えたモデルです。そしてウィルダネスでの体験から学ぼうとするときには、プロセスに着眼することが重要です。登山を例に挙げてみましょう。「グループで山に登る」という活動を通じて、そこから何か学ぼうとします。コンテント(目に見えて体験していること)に着眼をすれば登山の技術を学ぶことができるでしょう。しかし皆が日々登山をするわけではないので、この学びが日常生活で役立たない人もいることでしょう。

一方、プロセスに着眼するとはどういうことでしょうか。グループで山に登る活動をしているときに、個人の内面や人と人との関係においてどんなことが起きているのかを省察してみるということです。普段登山をしない人にとっても、そこに立ち現れてくる自己の在り方や他者との関係性に着眼することは、日常での自分の在り方を考える機会にもなり、誰にとっても日常生活に通ずる学びとなるはずです。

何について学ぶのか、扱う領域

自己や他者との関係性について学びます。プロセスへと目を向け、グループで学習のサイクルを回していくことによって、ウィルダネスでの体験を日常への学びとして生かしていくことができます。目の前で体験していることから学び成長する体験は、その時その場の現実に向かい合い、柔軟に自分を適応させていく力となるでしょう。それは他者との関係だけでなく、自分自身との関係性をより良いものへと変えていく柔軟さと言えるかもしれません。

コンセプト2