クライアントの声 ヴィジョン・クエスト~滝に挑む~ ペコ

やり遂げるって、こんなにも気持ちいいんだ

冒険教育プログラム ヴィジョン・クエスト~滝に挑む~参加 ペコ

 滝登りの本流の中で、どうにもならなかった。
ムネとは命綱のあのロープで繋がっていた。あがきもがいてもロープはただそこにあるだけで、びくとも動かない。
「もう!ムネが引っ張りあげてくれてもいいじゃん目的の本流には何度となく入っているじゃん。こんなにもがいているのだから…。」
そんな事を思っている時は、ロープは動かない。「なんなんだ!くそっ」
滝の水圧に勝手に内股外股内股外股と右足が動いてた。
どうにもならない…。でも、これじゃ動けない。
ちょっとでもいい、前に進むんだ。足を動かした瞬間にロープはぐん!とくる。あのロープはまるで意志と意志を繋いでいた。
何度も何度も本流で、もがき流れから出る。
それを繰り返していた。一息ついて
よし!本流に入ろう。内壁にメットがくっつく位に入る!気合いをいれた。メットのふちを水がキラキラしている。「はぁはぁ…。はぁ。はぁ。」自分の息が聞こえる静かだ…。手を伸ばし尽くしているのにつかめなかった。どうせ上は見ることが出来ない、ならば感じよう。目が見えなくてもいいかもしれない…。
瞳を閉じてみる。
どこか安らいでいた…。
このまま動かずこの世界にいたくなってしまう…。一瞬そんな気持ちになった。
「おーい」
「ダメダメのぼれー」
下の方から声が聞こえた。
ふと目を開けてメットの先からツーツーと落ちている長い雫の先を下へとたどると
二人の青いパーカーと白いヘルメットが見えた。モンドだ!
えーっまさかここまで一緒に進んで支えて、付いて来てくれたのか!?

そう思ったとき、
パーカーが外れウエットの背中に水が入ってきた。
まずい!落ちる。
本流から出る。
すると、左の壁にしらたまがいた。モンドもいた。
「ペコー」「がんばれー」何度となくな声が聞こえる。さぁもう一度あの感覚あの安らぎの中へ…。
はぁはぁ…。手も足もきつい。
重たいものを背負っているかのようだった。本流の中で動かなくなった片足を両手で、持ちあげ力を入れた。その瞬間ぐん!
とすすんだ。「これだ!この感覚!これで進めばいいんだ」届かなかった上段の引っ掛かりに手がかりを見つけた。これがチャンスだ!この手は離さない!
「神様神様…。」
何故かそう思っていた。

本流の中から鯉のようにがばっ!と体が出る。
そんな感じ。キョロのあのバランスよくしなやかな動きのイメージを思い浮かべながら、ロープはズンズンと引っ張りあげてくれるかのように進んだ。
そして気がつくと滝を登りきっていた。
顔をあげるとムネが笑っていた。
私。もう本流に向かわなくていいの?上がれた。でも、終わってしまった。
「もういいんだよ。」「登れたんだよ。」そう思ったら胸が苦しくなった。

ここに来る3週間前…。
親友が危篤となり連絡が入った、その5時間後亡くなってしまった。その知らせを受けたときと同じ感覚だ。
夢中になっていた事が突然消えてしまった。
上手く息が出来ない。ガクガク足が震え止まらない。
ムネに抱きついてしまった。
背中をバンバン叩いてくれる。
あのときもハグして背中をトントンしてもらった。
「生きている。」こんな状態でも息をしてる…。
深い感動の中にいた。
涙は出なかった。嗚咽だった。

ふと
振り返ると、キョロがいた。たかまきが見守っていてくれた。
そこにいてくれることがただ嬉しかった。キョロと抱き合った。見ててくれたんだ。自分の事のように喜んでくれた。それが、嬉しかった。

足はガクガク震えが止まらなかった。
休憩しながらも、下の様子が気になる。
さぁ、ムネとしらたまのセッションだ。
本当にしらたまは登るのだろうか…。
その時、ムネの命綱に力が加わった。
始まった!自分との戦いだ。しっかり見届けよう。自分が登っているかのようだった下から送り出すのはもんどがいた
でも、始まってしまえば一人の世界。自分が決めたルートを進むしかない。
本流に向かう姿は尊かった。ムネのロープは苦しんでいても、動じない。でも、進もうとしていると必ずぐっと、ロープは巻かれていった。
ムネとしらたまの会話を見ているようだった。「まだまだ。本流に行くんだ!」
そんな心の声が聞こえた。
そのしらたまが、それに答える。
とうとうてっぺんにきた!
登りきるとあっけない。
しらたまに「お疲れ様。」と言ったとたんぐっと、きた。
ハグをした。
いとおしかった。
キョロも近づいてきて3人で健闘を称えあった。2人は泣いていた。
私は嬉しくて嬉しくて仕方なかった。心が踊っていた。
やり遂げるって、こんなにも気持ちいいんだ。ずるはなし、身も心も出しきった清々しさ。あの味を一度味わってしまったらもう他の味では物足りないだろう…。
「本流にいけ!」
本流にしか見えないものがあるから。

振り返りの時間…。

自分と他人のイメージが違っていた。
生まれるかのようにガバッと、顔を出したつもりだったのに、登りきっているのに顔を上げなかったらしい。
とびきりのその懸命さに笑ってしまった。
私らしいな…。
目標に向かって1つ1つ進むんだ。
負けたら終わりじゃなくて、やめたら終わりなんだ。
でも、終わりも大切。終わりがあるから次が始まるから。
そう。これでいい。
帰って来てからたかまきが写真が、アップされた。何度も何度も見ている。

滝の本流での不思議体験。
これは写真にも、周りにいた人にも分からない。

下にいた人たちは「過去」
これまで私を支えてくれた人たちの上に
「今」の自分は呼吸していた。へその緒のように命綱が意志で繋がっている。

これから登る先には、なりたい自分がいる「未来」だ。
一歩一歩しか進めない。充分だった。
心が豊かだ。
喪失感も辛さ苦しさ情けなさ、すべて持ってる。
でも、幸せ。
両極端なものを持っているのではなく、すべてを持っているから幸せなんだ。
緩やかな川の中で、身を委ねて寝転んだ。
登りきって
天を仰いで
掌を合わせた。

合わせた手のひらの中には
見えない心の中のすべてのものが入っている。

今ここに在ることを感謝した。
「有り難う」その言葉以外浮かばなかった。

photography by atacamaki
http://151truevine.wix.com/less-is-more